ジェイゾロフトの臨床試験は、本当に「OK」だったのか?(後編)
「ランダム化治療中止試験で再燃抑制効果が測れるはずだと思っているし、医師もそう言っている」と主張するファイザー。しかし日精診は「この方法では測れない」と主張、意見が真っ向から対立しています。なぜ両者の解釈が異なっているのでしょうか。
問題のキモ「プラセボ対照ランダム化治療中止試験」って、どんなもの?
この試験は、国内の抗うつ薬の治験では初めて採用された方法です。まず同薬をすべての患者に投与し、良い反応があった患者のみを選び出して2群にわけ、片方にはプラセボ(偽薬)を、もう片方には同薬を引き続き投与して、経過を見ます。プラセボ群よりも実薬群で回復が上回れば、同薬はたしかに効果があるというわけです。
しかし日精診はこの方法に疑問を持っています。同薬に良い反応があった患者だけを選んでプラセボと実薬を比較したら、実薬で効果が上回るのが当然だというのです。
確かに薬によっては急にやめると不快な症状(退薬症状)が出る場合があるため、日精診の主張には一定の説得力がありますが、なにしろ初めての方法なので、意見の食い違いはどうしても避けられない情勢です。
なぜ非劣性が証明できなかったの?
そもそも非劣性が証明できていれば話は簡単だったのに、なぜできなかったのでしょうか。
メーカーに依頼されて実際の治験に当たった医師は、今年のうつ病学会ランチョンセミナーでこんな見解を明かしています。「第二相試験(小規模臨床試験)は非常にいい成績だった。それで第三相試験は投与量を少なくしてしまった。今思えば、投与量をもっと増やせばよかった。」
抗うつ薬は十分量投与しないと効果がない例も多いため、議論の余地はあるものの、医師の見解にもこれまた一定の説得力があります。
ジェイゾロフト治験 知られざる裏事情
「なら、量を増やしてもう一度再試験すればよかったじゃない」……しかし、再試験には少なくとも数年かかるので、方法選びは慎重にならざるを得ません。
一方で、厚労省がプラセボ対照試験を後押ししていた事実がありました。治験担当医師は同セミナーで「(治験を行った当時)厚労省はなにしろ、プラセボを対照とした治験をやってほしいと言っていた。(中略)あの当時、先駆けてプラセボ試験をやった、その事実が(承認の際に)評価された」と裏事情を明かしています。
ファ社は、厚労省の意見に後押しされる形で「プラセボ対照ランダム化治療中止試験」という新しい治験法を選んだわけですね。
日精診の不安はファ社の宣伝姿勢にあり
しかしもちろん、ファ社の宣伝冊子ではそこまでの事情は読み取れません。日精診は、冊子の説明文には多大な問題ありと主張し、「効果が不十分」との記載と合わせ、ファ社の宣伝冊子を徹底的に糾弾しました。
つまり「日精診がファ社の宣伝姿勢に対し、牽制球を投げた」というのが、今回の騒動の真相といえるでしょう。
まとめ
・薬がダメと分かったわけじゃない、試験がイマイチでよく分からなかっただけ
・海外では効くという結果が出ているし、総合的に見て販売開始には問題なさそう
・だから安心してOK
・最終結論は市販後調査まで持ちこし
Q&A
◆結局、再燃抑制効果は測れるの? 測れないの?
現時点ではわかりません。初めての治験方法だったので、解釈が妥当かどうかも含め、今後専門家が学術的に論議・判断していくことになります。
◆「効果が不十分」の文字を削ったのは、情報隠蔽?
治験事情に詳しいY氏は「厚労省が承認したということは、それなりに効果を証明するデータがあるわけで、現時点で『効果がある』と宣伝に書くのは差し支えないはず」とコメント。メーカーの過度な宣伝文句がなければ、もともといらない記載だったと解釈できます。
メーカーおよび医療従事者へ 患者側からの苦言
騒動の発端となったファイザー社の宣伝冊子は、あまりにもお粗末でした。きちんと通読すれば誰でも気づくような正反対の表記を見のがし、その結果、患者に無用の不安を与えてしまった事実はとても重いものです。また時に命にかかわる「医薬品」を宣伝するには、表現にも一定の節度・真摯な態度が必要なはずです。抗うつ薬を必要とする患者の心情に配慮し、再発防止に努めてください。
日精診が宣伝冊子を大きく取り上げて問題にした理由は、どうやら「宣伝冊子に惑わされて処方した場合、患者への説明責任が果たせない」という点につきるようです。しかし宣伝にメーカーの恣意が入りこむのは、いわば当然のこと。宣伝に惑わされず、科学的根拠から医薬品を判断するのが医師の勤めではないでしょうか。医師の多忙ぶりは聞きしに勝るそうですが、患者は医師の判断を信頼するほかありません。医師免許がほこりをかぶらないよう、日頃からの努力をお願いいたします。
ライターより:
医学は進歩したといえども、現状では薬の効果を完全かつ正確に検証するのはまだまだ難しいことのようです。ただ、一昔前の治験は今よりもさらにあいまいだったとのこと。それなら、最近の薬は昔に比べてはるかに効果がはっきりしていると言えそうです。
「100%効果のある万能薬はないけれど、どの薬もある程度効く」事実を上手に利用して、薬とうまくつき合うのがよさそうですね。
(佐藤未果)
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| 2006年09月20日 20:02 | | この記事のアドレス URL |
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