(講演レポート)「疲労の科学と疲労克服−疲れがとれないあなたに−」

2009年1月20日、津田ホールにて精神研(東京都精神医学総合研究所)都民講座「ストレス社会を生きる」第6回、「疲労の科学と疲労克服−疲れがとれないあなたに−」が開催されました。
会場は平日昼間にもかかわらずほぼ満席。受講者は中高年の方が多く、女性の割合がやや高いようでした。


講師の渡辺恭良先生は、理化学研究所分子イメージング科学研究センターのセンター長、大阪市立大学大学院医学研究科教授という二役をこなしつつ、「疲労」に関するプロジェクトの統括もつとめていらっしゃるとのこと。
「減病」(病気にならないための医学、健康医学)への関心が高まる中で進められてきた「疲労」研究の成果を、盛りだくさんで紹介してくださいました。


3000万人以上が「半年以上疲れている」
2004年文部科学省が行った調査によると、「疲れている」人の割合は56%。これは1985年の調査でもほぼ同じ、また、諸外国ともほぼ同じ数字とのこと。
ただし「疲れている期間が6か月以上(慢性疲労状態)」と答えた人は全体の39%で、これはイギリスの20%、アメリカの22%より多く、就労人口に換算すると日本では約3120万人が「慢性疲労」状態にあるとのことです。

さらに、慢性疲労の人のうち8.6%(全体の約3%)が疲労で「時々休む」あるいは「休職・退職」と答えており、生活に支障が出るほど疲労を感じていることがわかりました。


疲れた体では何が起こっているのか
身体の異常を感知し、警報を出す「三大生体アラーム」と呼ばれる機能のうち、「痛み」と「発熱」についてはその原因となる要素、それを和らげる要素(リセット因子)がかなり解明されていますが、残る「疲労」についてはよくわかっていませんでした。
そこで、強制的に運動させる、眠らせない、など様々な方法で「疲れさせた」動物を用いて実験したところ、疲れた動物では以下のようなことが起こっていました。

  1. 脳のブドウ糖(グルコース)取り込みが低下
  2. 脳でセロトニン・ドーパミンなどの異常が発生
  3. 免疫系に関連したタンパク質(サイトカイン)異常
  4. 鉄の減少(鉄不足で赤血球が減少するはるか以前から、鉄不足で疲れを感じる)
  5. 脳下垂体の細胞が死ぬ(過労死と同じメカニズムか?)

上の2.に関連して、慢性疲労症候群の患者さんでは、集中力や注意、自律神経をつかさどる前帯状回という部分のセロトニンが低下していること、またものを考える部位である前頭前野が萎縮していることがわかっています。なお、この萎縮は慢性疲労症候群から快復すると、良くなるそうです。


疲労の原因は乳酸ではない
また、よく疲労原因物質と言われる「乳酸」ですが、

  1. 運動で上昇するものの、運動後には疲れていてももとのレベルまで下がる
  2. トレーニングを繰り返すことで体が慣れ、疲れが少なくなっても上昇度合いは変わらない
  3. 乳酸の蓄積で起こる酸性化は、むしろ筋肉の活動を助ける

などのことから、「乳酸は、一時的にではあるが疲労からの『回復お助け物質』である」ということがわかりました。

さらに、脳のエネルギー源となるアデノシン三リン酸(ATP)のレベルをはかると、疲れていてもそれほど減少はしない(末端ではやや減少)ものの、疲れからの回復にはかなりのATPを必要とすることがわかりました。
このことから、「回復お助け物質を十分に補えれば疲労はとれる」と言えそうです。


回復を助けるものは何か
「回復お助け物質」は科学的に立証されているだけでもかなりの数があります。

  • コエンザイムQ10
  • クエン酸
  • α−リポ酸
  • アミノ酸
  • アセチル−L−カルニチン
  • 森の香り(青葉アルデヒド・青葉アルコール)

などがそうです。
これらはそれぞれ作用する点が異なるので、ある人に効いたから自分にも、というわけには行きません。そこで「個別カクテル」という考え方が必要になってきます。
また、多くの人が疲労回復法としてあげている入浴、温泉、アニマルセラピーやアロマセラピー、笑いなど、その効果の検証が進められているものもあります。

渡辺先生が統括している「疲労定量化および抗疲労食薬開発プロジェクト」では、産・官・学が連携してさらに研究を進めるとともに、抗疲労物質の特定保健用食品(トクホ)申請へ向けての活動も進めているとのことです。


本郷玖美


この記事は、以下の記事にトラックバックを送信しました。

■ストレスによる心の変化と体のサイン


 

うつ病ドリル管理人のうつ病実体験から選びに選んだ、
世界最高品質レベルのサプリメントは ■サプリコーナー

うつ病のみなさんと共に選んだ、 ここでしか買えないお役立ち商品! ■商品一覧

うつ病、うつの症状・治療 うつ病、うつの診断・チェック うつ病、うつの回復マニュアル

うつ病の症状と
似ている病気

統計・データを使ったうつ病講座。

うつ病診断 x4

医者も使っている国際基準のチェックリストが3つ+1つあります。

回復マニュアル

すぐ使えて根本的なノウハウをまとめてあります。

( → この記事を引用・転載するには?

  | 2009年01月27日 22:28  | この記事のアドレス URL  |

似ている記事

■動じない心(不動心)の作り方〜今日からできる2つの方法
■女子レスリング小原日登美選手金メダル〜うつ病を乗り越えて
■(コラム)混乱して頭がいっぱい!っていう時、どうする?
■(コラム)ポジティブ・気楽に考えたいけど難しい!というときの対策。
■(シンポジウムレポート)気分障害の生物学的研究の最新動向
■(講演レポート)メタボ・うつと睡眠障害 予防と対処法
■(講演レポート)支え合う家族の力と心の回復
■(講演レポート)心が安らぐ睡眠のとり方
■(講演レポート)脳と栄養のシンポジウム
■(コラム)「頭の中の勝手なおしゃべり」を鎮める方法
■(コラム)「自分と向き合う」って、どういうこと?
■(講演レポート)うつ病休職者のリワーク支援 -働く場への心の回復-
■(講演レポート)「疲労の科学と疲労克服−疲れがとれないあなたに−」
■(講演レポート)心のトラブルと低血糖症の関係〜砂糖は脳にとって必要か〜
■(講演レポート)「精神疾患への新しい考え方 〜栄養アプローチの理論と実際〜」
■(講演レポート)「不眠症の原因と睡眠薬の使い方」
■(講演レポート)「ストレスと精神生物学 −新しい診断法を目指して−」
■(講演レポート)眠りの仕組みからみた睡眠障害 −眠気とその対処法−

続きは → コーナー全記事リスト




■うつ病の深い情報はメルマガで
この記事は気に入って頂けましたか? もっと深ーいうつ病情報は、当サイトのメール会報(メールマガジン)に登録された方にだけお送りしております。
うつ病の本の新刊や、うつ病用ツールの新製品などのプレゼントも行っています。

日本で発行されているうつ病のメールマガジンでは読者数1位です。
読者登録は無料です → もっと詳しく&バックナンバー
メルマガ購読・解除 ID: 135145
うつ病ドリル 〜メキメキ治った!実践法〜
   
バックナンバー powered by まぐまぐトップページへ



トラックバック絶賛受付中!

このエントリーのトラックバックURL:
http://u-drill.sakura.ne.jp/mt/mt-tb.cgi/2086


サイト名「さよなら、うつ。」
記事名「うつ病の「栄養療法」について
うつ病の「栄養療法」に詳しいサイトの紹介 2009年02月09日 22:01