(講演レポート)メタボ・うつと睡眠障害 予防と対処法
2009年12月1日(火)、女性と仕事の未来館(東京都港区)において、(財)東京顕微鏡院/医療法人社団こころとからだの元氣プラザ主催「メタボ・うつと睡眠障害 予防と対処法」という講演が行われました。
その聴講レポートをお送りします。
シリーズ「働きざかりから始める、人生80年時代の健康づくり」
第6回「メタボ・うつと睡眠障害 予防と対処法」
平成21年12月1日(火) 女性と仕事の未来館(東京都港区)
講師:(財)神経研究所附属睡眠学センター センター長
東京医科大学教授 井上雄一氏
1.不眠とうつ病
日本人の睡眠時間は世界でもっとも短い
日本人は遅寝(12時以降に就寝する人の割合)で世界6位、早起き(7時までに起床する人の割合)で世界8位です。
ただし、5位以上はスペイン・韓国など、昼に仮眠を取る習慣のある国となっています。
遅寝・早起き共にトップ10に入っているのは日本だけです。
うつと不眠の強い関連
うつ病患者の90%以上は不眠を訴えますし、不眠を中心に訴える患者の20%(中高年では50%)がうつ病を発症しています。
また、糖尿病患者の20%、高血圧の患者の30%がうつ病を合併しています。
3年間の追跡調査の結果、不眠のあった人が3年後にうつになる確率は
20代で4倍、高齢者で3倍となっています。
また、睡眠状態とうつ病の発症率の関係についての別の調査では
「ずっと良い睡眠」……0.4%
「不眠だったが改善した」……0.6%
「良い睡眠だったが不眠になった」……11.9%
「ずっと不眠」……14.0%
となっています。
また、睡眠時間とうつ症状の現れる頻度の関係を調査すると
もっともうつ症状が少ないのは睡眠時間が7〜8時間の人となっており、それより多くても少なくてもうつ症状の頻度は増えています。
ですが、「うつ症状」と「睡眠時間」のどちらが原因かははっきりわかっていません。
また、交代勤務者の80%に睡眠障害があることがわかっており、交代勤務の勤続年数6〜20年の人の約3割にうつ病がみられます。
このように「不眠」と「うつ」は深い関連を持っていますが、「うつ」が自覚や診断がしにくいのに比べ、「不眠」は自覚や診断が比較的容易です。
不眠の早期発見、早期治療がうつや自殺の予防につながる可能性があると考えます。
2.高血圧・糖尿病と不眠
寝ないと血圧は上がる
通常の睡眠中、血圧は覚醒時より約10%下がります。また、1晩徹夜すると拡張期血圧(最低血圧)は約10mmhg上がります。
さらに、慢性の不眠症は高血圧症の発症リスクを2倍高めることがわかっています。
睡眠不足は糖尿病を引き起こす?
睡眠不足の状態を続けると、インスリン分泌量には変化がないものの、朝食後の血糖値上昇が激しくなるという実験結果があります。
また、男性では「糖尿病発症の危険因子」として「飲酒」を1とした場合の危険率は
・睡眠障害……5
・肥満…………6.5
という結果になっています。
高血圧・糖尿病予防にも7〜8時間睡眠
睡眠時間との関係を見ると、高血圧・糖尿病ともにリスクが最も少ないのは「睡眠時間7〜8時間」の人であり、これはうつ病のリスクと同じです。
高血圧治療・糖尿病治療と不眠の治療とをいちどきにやってしまうと血圧や血糖値が下がりすぎてしまいます。
その場合、まず不眠を治療します。するとそれだけで血圧や血糖値が正常になることも多いのです。
3.睡眠と肥満
不眠が肥満を引き起こすメカニズム
不眠や睡眠不足になると、
→空腹の信号となるホルモン・グレリンが増え
→満腹の信号となるホルモン・レプチンが減り
→空腹感が増し食欲が増して
→食べ過ぎる→結果、肥満となる
寝ない子は太る
3歳児検診のときに睡眠時間が9時間未満だった子は、11時間以上だった子に比べ、10年後(中学1年生時)の肥満リスクが1.59倍高くなっていました。
いわゆるメタボリック・シンドロームの人も、睡眠時間が7〜8時間の人に最も少ないことがわかっています。
4.睡眠薬の使い方
日本人は医者嫌い、アルコール好き
不眠対策の国際比較(スペイン、中国、ドイツ、ブラジル、ベルギー、日本)では
日本だけが不眠対策の第1位として「アルコール摂取」を挙げています(約3割)。
また、「医師を受診」する割合は6カ国中突出して低くなっています(1割未満)。
睡眠薬にまつわる「迷信」
今の睡眠薬はアルコールよりはるかに安全といえます。
にもかかわらず、ドラマなどの影響か「睡眠薬で死ぬ」「睡眠薬はやめられなくなる」といったいわば「迷信」がいまだにまかり通っています。
医師の処方を守り、多量のアルコールの併用などしなければ睡眠薬にこれらの危険はありません。
「睡眠薬は効かない」という声もありますが、「その日からすぐに眠れる量の処方はしない」という、処方の基本的な考え方によるものだと思います。
また、OTC(医師の処方箋がなくても、薬局・薬店で購入できる一般用医薬品)の睡眠補助薬には、耐性がつきやすい、依存性がある、というものがあるため注意が必要です。
5.睡眠時無呼吸症候群とメタボ対策
肥満の人は脂肪過多により喉が狭くなりやすく、それが睡眠時無呼吸を引き起こす原因になります。
しかし、「顎が小さい」「頭部の奥行きが狭い」「口蓋垂が大きい」など骨格や体質の問題、また遺伝的な問題もありますので、専門医の診断が必要です。
「いびき」は人口の3割以上に見られ、対して睡眠時無呼吸は人口の数%ですので、「いびき」が即、睡眠時無呼吸であるというわけではありません。
まず「いびき」がどこから出るか見極め、鼻なら耳鼻科に相談をすすめます。
喉なら「横向き寝」が有効という説もありますが、姿勢の維持が難しいため、マウスピースが有効です。
睡眠時無呼吸を放置しておくと、夜間睡眠の質が低下し昼間眠気を催すことが多くなり、事故などにつながりかねません。
また無呼吸時の血圧は通常より30〜40mmhg上がり、心血管疾患にも悪影響を及ぼします。
6.おわりに
睡眠、うつ、メタボリック・シンドローム、睡眠時無呼吸などは相互に関連しています。治療のためにはそれらの悪循環を良い循環に変えなければいけません。
その治療のために、医療、栄養、運動などの機関が相互に連携することが必要になってくるのです。
(本郷玖美)
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| 2009年12月11日 18:44 | | この記事のアドレス URL |
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