うつ病とは何か? …というのはどこのサイトにも書いてあるから、別にここで書く必要もないかも知れないが、「うつ病ってセロトニンの伝達不良でしょ?」といった誤解のまま読み進められると困るので、ここでまず定義から。
なお、これを満たさなかったら健康という意味ではない。うつ病の診断には、上記の DSM-IV マニュアル以外にも「ベックのうつ病自己評価尺度」などさまざまなものがある。原因と関係なく、「ゆううつな気分か無気力感がいつまでも晴れない」ならうつ病と考えても間違いではないだろう。いいかい、「原因と関係なく」、だ。たとえあなたの脳ですでに充分な量のセロトニンが伝達されていても、ゆううつで無気力で会社に行きたくない状態が続いていたらうつ病なのだ。
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これは、脳細胞の間でのセロトニンのやりとりを表した図。黒い点がセロトニン。上から下の受容体までスムーズに移動してくれれば、脳細胞の間に「現在は安心してよい」という情報が伝わる。
で、途中で赤い点線のように戻ってきてしまうセロトニンがある。これを再吸収といって、これが起きると信号が伝わらないため、「安心してよい」という情報が途切れてしまう。 この再吸収があるから「安心してよい」という精神状態になれなくて不安やゆううつが起きるのだ、というのが 抗うつ剤の大事な前提である。 ※正常な人でも、なんと放出されたセロトニンの7割が再吸収側に戻ってきてしまうそうだ。 |
ご存知の通り、抗うつ剤 はこの再吸収側の穴をふさいで邪魔をする薬だ。セロトニンのUターンを邪魔して一方通行にすると、信号がうまく伝わって精神状態が安心するという理屈である。
まぁ、ここまでは良い。
では、この仮定が崩れたらどうか。例えば、
といった場合だ。
例えば、1番目のケースは「抗うつ剤をいくら飲んでも効果がない」という形で現れる。セロトニンの再吸収口は6種類あるが、その全てをふさげる薬はまだ存在しないからだ。ふさいでいない再吸収口から再吸収が起きている限り、その抗うつ剤はあなたにとって効果がない。
6種類の再吸収口とは以下の通りである:
S , L , XL というのは遺伝子の長さを表す。セロトニン再吸収口を形作る遺伝子は2つが対になった構造をしているのだが、その各遺伝子が
Short か Long か XtraLong かという命名だ。なお、S を含む人は環境適応が苦手で不安になりやすい傾向がある(東洋人の 80%
はこのタイプで、中でも日本人では S-S の人が最も多い)。逆に西洋人は L を含む人が 60% と多数派である。
2番目のケースを「モノアミンが酵素に酸化させられた」と言う。モノアミンが酸化させられて壊されてしまうと受け取り側にセロトニンが伝わらず、結果としてうつ状態が発生する。そして、このケースの場合は「モノアミン酸化酵素阻害剤(MAO阻害剤)」という薬を使うと症状が軽くなる。
3番目のケースでは、ECTといって脳に電撃を与える治療法が有効。受容体には14種類あるが、脳に電撃を与えるとそのうちいくつかの受容体が増えるのだ。
これら3つのケース=従来の治療法では、どれも過程こそ変われど結果的に抗うつ剤が効かない。しかも、どの方法も「少ないセロトニンを何とかやりくりする」という対症療法に過ぎず、「そもそもなぜセロトニンが減ったのか、減ったものをどう増やすのか」という根本治療ではない。
そして、今まで見過ごされて来たのが4番目と5番目のケース。今までの治療法、つまり再吸収抑制や受容体活性化というのは、セロトニンは(少しだけ)あるが伝達がうまくいってないだけだという前提の上になりたっている。つまり、これらの治療法はそもそもセロトニンがなければ意味がない(伝達のさせようがない)。
このサイトのアプローチはこの点に注目したもので、「セロトニンが減った原因を解消してセロトニンをたくさん作らせれば、多少再吸収されようが酸化されようが構わない」というものである。
では、さかのぼって考えて、どうしてセロトニンが作られなくなったのか? について答えたい。
あくまで仮説だが、答えは扁桃体の興奮しすぎだ。
うつ病患者で扁桃体が興奮している例:
どういうことか、順を追って見てみよう。
扁桃体とは脳の中心近い部分にある場所で、感情を生み出す場所と言われてる。見たり聞いたりして認識した事態に対し、それが快か不快かを判断する場所だ。
もし「今は不快な状態である」と扁桃体が判断すると、扁桃体が興奮する=扁桃体に多くの血が流れ込む。そして、以下の3つの反応が起きる:
コルチゾールはストレスホルモンともよばれ、生命維持のために「闘うか逃げるか」という選択への準備を全身に促す役目をする。具体的には血圧や血糖値を上げ、食欲を抑制させる。つまり、この反応は原始時代に人間が生き残るのに必要だったものだ。不快な状況、つまり生命の危機を感じた時に「闘うか逃げる」という方法で人間が生き残ってきた名残だ。
原始時代はこれでも良かった。襲われたら、やられる前にやるか、逃げる。危機が去ったらそれでOK。ずっと危機にさらされ続けるようなことはなかったのだ。
ところが現代は違う。ずっと不快な状況なんてどこにでもある。例えば景気が悪くていつクビにされるか分からない、という状況などがそうだ。問題は、このように「不快ではあるが生命の危機と呼べるほどではない」場合でもコルチゾールが出てしまうことと、このような事態は一過性ではなく延々と続くものであることだ。
事態が継続するということは、扁桃体の興奮が収まらずにコルチゾールが出続け、セロトニン抑制とノルアドレナリン過剰も続くということだ。そして、ごく短時間ならば肉体の働きを活発にさせる一連の反応も、長時間出続けると悪影響の方が大きくなる。
悪影響とは、上記の3反応にそれぞれ対応している:
うつ病の正体は、扁桃体が興奮した結果のこれら3つの反応である。決してセロトニン不足ありき、ノルアドレナリン不足ありきではない。だから、本当の治療とは扁桃体の興奮を抑制することと、その抑制が成功するまで上記の3つの悪影響を抑えて時間を稼ぐことだ。
うつ病では、扁桃体の興奮と関連してさまざまな悪影響が起きる。
列挙してみよう。
本来は扁桃体の興奮さえ収まってくれれば大部分は済む話。だが、その方法が現在見つかっていないのだ。
どういう時に扁桃体が興奮するかというと、1つは今現在の状況が不快な時。2つめは過去の不快な状況を思い出した時。特に2つめの方は、自分が意識しなくても=無意識のうちに過去の記憶が反すうされていても起きてしまう。これは自分の意思でどうにかできるものではない。
それでも、健康な人であれば扁桃体が興奮しすぎたら前頭葉が抑えてくれる。しかし、うつ病の場合は慢性的な血行不良で前頭葉が弱っており、扁桃体を黙らせる力を失っているという悪循環が起きているので、もはや止める手段がないのだ。一般的に言われている「うつ病には休養が必要」というのは、「扁桃体をこれ以上興奮させるな」という意味だ。
ではどうするか? ポイントは3つ。この3つがサイトの表紙で言っている「一刻も早く治すために知っておきたい3つのポイント」だ。
具体的には、
どうだろう。あまり馴染みのない手段ばかりに見えるかも知れないが、これらはうつ病のメカニズムに忠実に対応して手を打った結果だ。「良い休養」の効率を追求していった結果とも言える。
なお、今までの「抗うつ剤を飲んで安静にする」という手段は否定しない。あれはあれで意味がある。しかし、それだけではいつまで経っても治らないという人や、いつ治るか分からないのを待ってはいられないという人に、少しでも早く治る方法を教えたいのだ。
だから、まずは医者にいって抗うつ剤をもらい、出来れば安静にしていること。どうしても仕事が休めない、ストレスから逃げられないという場合は、それはそれで仕方がない。治る速度は少し遅くなるが、何とかなるので安心して欲しい。